「6061 は ER4043 と ER5356 のどちらで溶接すべきか」は、アルミ溶接の現場で最も多いご質問です。この質問の裏には、どのアルミ材でもどちらか好きなほうを選べるというよくある誤解があります。実際には、片方しか使えない母材もあります。本当に「どちらでもよい」のは 6061 のような母材で、その場合はワークに何を最も求めるかで決まります。本記事では、カナダ Indalco アルミ溶接材料のアジア唯一の正規代理店である商濠實業(Mastership)が、AWS 規格と溶加材選定データに基づいて整理します。
先に結論
| 条件 | 選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 母材が 5083・5086・5456(Mg 約 2.8% 超) | ER5356(または ER5183) | 4043 は使用不可。下記「唯一の禁止事項」参照 |
| 溶接後に陽極酸化処理を行い、色調をそろえたい | ER5356 | 4043 の溶接部は陽極酸化後に暗灰色になる |
| 6xxx 系母材で、65 °C を超える温度で長期使用 | ER4043 | 5356 は Mg 約 5% で、高温での長期使用により鋭敏化する |
| せん断荷重を受けるすみ肉溶接が主体 | ER5356 | せん断強さが明らかに高い(4043 の 1.5 倍以上) |
| 溶接後に曲げ・成形加工を行う | ER5356 | 延性が高い |
| 割れやすい継手、鋳物の補修、ビード外観重視 | ER4043 | 溶融金属の流動性が良く、割れ感受性が低く、スマットが少ない |
違いはケイ素かマグネシウムか
| ER4043 | ER5356 | |
|---|---|---|
| 合金系 | Al-Si 系 | Al-Mg 系 |
| 主な添加元素(AWS A5.10) | Si 4.5~6.0% | Mg 4.5~5.5% |
| 主な特長 | 流動性が良い、耐割れ性、ビードが平滑 | 強度が高い、延性が高い、陽極酸化後の色調が良好 |
一言でいえば、ケイ素は溶接のしやすさを、マグネシウムは強度をもたらします。以下の判断はすべてここから導かれます。
唯一の禁止事項:高 Mg の 5xxx 系母材に ER4043 は使わない
これだけは判断の余地がないルールです。母材の Mg 量が約 2.8% を超えると、4043 のケイ素が母材のマグネシウムと結びつき、非常に脆い化合物であるケイ化マグネシウム(Mg₂Si)を生成します。これが溶接金属中に多量に生じると、延性が低下し、割れ感受性が高まります。したがって:
- 5083・5086・5456 などの高 Mg 5xxx 系母材:ER5356 を使用。船舶用 5083 板は ER5183 が優先です(ER5183 と ER5356 の違い参照)。
- 5052(Mg 2.2~2.8%):しきい値を下回るためどちらも使用可能。要求性能で選んでください。
6061 でどちらも使える場合:6 つの判断ポイント
6xxx 系母材は約 1% の Mg₂Si を含み、溶加材なしで溶融溶接すると割れます。十分な量の溶加材で希釈する必要があります。4043 と 5356 はどちらもこの役割を果たせるので、あとはワークの優先順位で決まります。
① 陽極酸化処理を行うか → 行うなら ER5356
ケイ素の影響で、溶接部は陽極酸化後に暗灰色になり、母材との色差がはっきり出ます。5356 は母材に近い色調を保ちます。自転車フレーム、家具、建築の意匠部材など、溶接後に陽極酸化処理を行う製品には 5356 を選んでください。
② 65 °C を超える温度で長期使用するか → ER4043
Mg を 3% 超含む溶加材を 65 °C(150 °F)を超える温度で長期間使用すると、マグネシウムが結晶粒界に偏析して鋭敏化し、応力腐食割れのリスクが高まります。Mg 約 5% の 5356 は不向きです。4043 は Al-Si 系なので、この問題はありません。(5xxx 系母材の高温用途は ER5554 をご覧ください。)
③ すみ肉溶接にせん断荷重がかかるか → ER5356
AWS D1.2 に記載されたすみ肉溶接のせん断強さ:
| 溶加材 | 縦方向せん断 | 横方向せん断 |
|---|---|---|
| ER4043 | 11.5 ksi(約 79 MPa) | 15 ksi(約 103 MPa) |
| ER5356 | 17 ksi(約 117 MPa) | 26 ksi(約 179 MPa) |
同じ荷重なら、5356 のほうがすみ肉の脚長を小さくできます。4043 を使う場合は、設計段階で脚長を大きめに取ってください。
④ 溶接後に曲げ・成形を行うか → ER5356
4043 は 5356 より延性が低い溶加材です。溶接後に曲げ、ひずみ取り、冷間加工を行う場合は、5356 のほうが溶接部で割れにくくなります。
⑤ 耐割れ性と外観を優先するか → ER4043
ケイ素によって溶融池の流動性が高まります。4043 は割れ感受性がやや低く、ビードが平滑でスパッタも少なく、溶接部周辺の黒いスマットも少なめです。多くの溶接士が「溶接しやすい」と感じる溶加材です。拘束の大きい割れやすい継手や鋳物の補修溶接では、4043 がよく選ばれます。
⑥ MIG の送給性 → ER5356 のほうが手間がかからない
4043 はワイヤが柔らかく、長距離をプッシュ送給すると座屈して送給ローラ部でワイヤが絡まりやすくなります(いわゆるバードネスト)。5356 は硬く、送給トラブルが起きにくいワイヤです。4043 を MIG で使う場合は、U 溝の送給ローラと低摩擦ライナを使用し、必要に応じてスプールガンやプッシュプル送給に切り替えてください(MIG と TIG の使い分け参照)。
突合せ溶接:強度を決めるのは溶加材より熱影響部
「強度が高いから」という理由で 5356 を選ぶ方は多いのですが、6061-T6 の突合せ溶接では、この理由はあまり当てはまりません。6061-T6 の溶接前の引張強さは約 45 ksi(310 MPa)です。溶接熱で熱影響部の熱処理組織が失われ、溶接ままの強度は一般に約 27 ksi(186 MPa)まで下がります。AWS D1.2 が求める溶接ままの最低引張強さは 24 ksi(165 MPa)です。突合せ溶接の弱点は多くの場合、熱影響部にあります。そのため溶加材を替えても突合せ溶接の強度への影響は限られ、両者の強度差が表れるのは主に前述のすみ肉溶接のせん断強さです。実際の数値は貴社の溶接施工法試験記録(PQR)に従ってください。
溶接後熱処理で強度を回復させたい場合
4043 や 5356 を含む一般的な溶加材は、母材で大きく希釈されない限り、溶接後熱処理にほとんど反応しません。このため業界には ER4643 があります。4043 をベースにケイ素を減らし、マグネシウムを 0.10~0.30% 加えたもので、溶接後に熱処理を行う 6xxx 系の溶接構造物向けに開発された溶加材です。必要な場合は、まず当社に供給可否をお問い合わせください。
よくある選定ミス 3 つ
- 5083 の船体板を 4043 で溶接する:Mg₂Si で溶接部が脆くなります。5183 または 5356 に変更してください。
- 陽極酸化処理を行う意匠部材に 4043 を使う:溶接部が暗灰色の線になり、処理後には修正できません。
- 65 °C を超えて長期使用するタンクに 5356 を使う:鋭敏化により応力腐食割れのリスクがあります。6xxx 系母材なら 4043、5454 母材なら 5554 に変更してください。
よくあるご質問
同じ溶接線で、初層を 4043、仕上げ層を 5356 にしてもよいですか?
おすすめしません。2 種類の溶接金属が溶け合うと、ケイ素とマグネシウムの両方を多く含むことになり、上記の禁止事項(脆い Mg₂Si の生成)を再現してしまいます。同じ溶接線には同じ溶加材を使ってください。
6063 の押出材にはどちらを使いますか?
6061 と同じく、どちらも使用でき、判断の仕方も同じです。陽極酸化処理を行うなら 5356、耐割れ性と溶接のしやすさを重視するなら 4043 です。
A356 などのアルミ鋳物にはどちらを使いますか?
Al-Si 系の鋳物には通常 4043 を使います。成分が近く、流動性も良好です。
在庫とサンプル
商濠實業(Mastership)はカナダ Indalco アルミ溶接材料のアジア唯一の正規代理店です。ER4043 と ER5356 は MIG 用層巻きスプール・TIG 用溶加棒とも在庫があり、メーカー純正データシートとミルシート(MTC)を添付して出荷します。母材の材質、継手形式、陽極酸化処理の有無、使用温度をお知らせいただければ、選定をご支援し、試験用のサンプルスプールをお送りします。主要 5 銘柄の概要は アルミ溶接ワイヤ選定ガイドをご覧ください。
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