造船所の購買担当者からよくいただくご質問のひとつが、「ER5183 と ER5356 はどちらもアルミ‐マグネシウム系のワイヤですが、実際にはどこが違い、自社の板材にはどちらを使うべきですか」というものです。ネット上では「5183 のほうが Mg が多いから強度が高い」という説明をよく見かけますが、これは誤りです。両者の Mg 範囲はほぼ重なっており、本当の違いはマンガン(Mn)にあります。本記事では、カナダ Indalco アルミ溶接材料のアジア唯一の正規代理店である商濠實業(Mastership)が、AWS A5.10 の成分規定に基づいて整理します。
先に結論
| 母材 | 推奨溶加材 | 理由 |
|---|---|---|
| 5083(船体構造板、LNG タンク) | ER5183 | 成分が 5083 に対応(Mn を含む)。溶接まま強度が規定値を余裕をもって満たす。船級案件の標準的な組み合わせ |
| 5086・5052、一般的な 5xxx 系構造 | ER5356 | 強度は十分。最も汎用的で供給が安定 |
| 6061/6063 の構造部材・艤装 | ER5356 | 陽極酸化処理後の色調が良好。耐割れ性を優先する場合は ER4043 |
| 5454(65 °C 超で連続使用) | ER5554 | 5183・5356 とも不適。ER5554 解説参照 |
成分:差は Mn であって Mg ではない
AWS A5.10 の成分範囲(質量%)をそのまま並べます。
| 元素 | ER5356 | ER5183 | 差異 |
|---|---|---|---|
| マグネシウム Mg | 4.5〜5.5 | 4.3〜5.2 | 範囲が重なる。差異点ではない |
| マンガン Mn | 0.05〜0.20 | 0.50〜1.0 | 5183 は数倍。ここが要点 |
| クロム Cr | 0.05〜0.20 | 0.05〜0.25 | ほぼ同等 |
| チタン Ti | 0.06〜0.20 | 0.15 以下 | ほぼ同等(結晶粒微細化) |
Al-Mg 系合金における Mn の働きは 2 つあります。固溶強化と、Al₆(Mn,Fe) 分散粒子の形成による結晶粒粗大化の抑制です。ER5183 の溶接まま強度が高いのはこのためであり、Mg とは関係がありません。
なぜ 5083 には ER5183 なのか
5083 母材の成分を並べてみれば一目瞭然です。5083 の Mn は 0.40〜1.0%、Cr は 0.05〜0.25%——ER5183 は「5083 をそのままワイヤにしたもの」と言えます。溶加材の化学組成を母材に近づけることは溶加材選定の第一原則であり、これによって溶接部の強度・耐食性・電位が母材と整合します。
実務上の違いは強度の規定値に現れます。船級協会と AWS D1.2 はいずれも 5083 溶接継手に最低引張強さ(約 276 MPa/40 ksi)を求めています。ER5183 の溶接まま引張強さの典型値は ER5356 より約 5% 高く、規定値を余裕をもって満たします。一方 ER5356 は規定値付近にあり、溶接施工法試験(PQR)で不合格となるリスクが無視できません。実際の数値はメーカーのデータシートと貴社の PQR でご確認ください。
ER5183 のもうひとつの主戦場が低温容器です。LNG タンクなどは 5083 板材で製作され、溶加材にも ER5183 が使われます。極低温でも靭性を保つためです。
ER5356 で十分な場面
5086(Mg 3.5〜4.5%)、5052(Mg 2.2〜2.8%)、そして 6xxx 系の構造部材や艤装品は、母材自体の強度要求が 5083 より低く、ER5356 で十分に対応できます。ER5356 は世界で最も使用量の多いアルミ溶加材であり、供給が最も安定し線径の品揃えも最も豊富です。これらの用途で 5183 にグレードアップする必要はありません。
両者に共通する点(売り文句に惑わされないために)
- 鋭敏化のしきい値は同じ。どちらも Mg が 3% を超えるため、65 °C 以上で長期使用すると同様に β 相が析出して鋭敏化します。5183 が 5356 より耐熱性に優れるわけではありません。高温用途は ER5554 をご覧ください。
- 耐海水腐食性はほぼ同等。どちらも船舶用グレードの Al-Mg 系です。
- 陽極酸化処理後の色調もほぼ同等。いずれも Al-Si 系の ER4043 より明らかに良好です。
- MIG 用・TIG 用の両方を供給しており、同一銘柄であれば形態が違っても成分は同じです。
船級認証の見方
ABS・DNV・LR・BV・CCS の型式承認は銘柄ごと・線径ごとに発行され、ER5183 も ER5356 も承認を取得できます。重要なのは「どちらの銘柄が認証済みか」ではなく、使用予定の銘柄と線径が供給元の証書の適用範囲に含まれているか、そしてその証書が有効期限内かです。ご発注前に証書をご確認ください。詳しくは船級認証の解説記事をご覧ください。
よくあるご質問
5083 を ER5356 で溶接するとどうなりますか?
溶接自体は可能ですが、溶接まま強度が規定値付近となり、施工法試験でのリスクが高まります。船級案件では通常 5183 が直接指定されます。わずかな価格差のために負うべきリスクではありません。
ER5183 を 5052 や 6061 に使えますか?
使えます。適合性の問題はありませんが、いわば「過剰仕様」です。これらの母材には ER5356 で十分であり、コストと供給の面でも有利です。
同じ船で両銘柄を併用できますか?
できます。部位で使い分けてください——5083 の主要構造には 5183、艤装や 5086/6xxx の部品には 5356。条件は、それぞれの WPS が承認済みであること、そして溶加材の証書が使用する銘柄と線径を網羅していることです。
在庫とサンプル
商濠實業(Mastership)はカナダ Indalco アルミ溶接材料のアジア唯一の正規代理店です。ER5183 と ER5356 は MIG 用層巻きスプール・TIG 用溶加棒とも在庫があり、メーカー純正データシートとミルシート(MTC)を添付して出荷します。船級協会の証書はご要望に応じてご提示します。母材の材質・板厚・船級要求をお知らせいただければ、選定をご支援し、試験用のサンプルスプールをお送りします。
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